INT_4:Newtonの発達障害特集で有用性の突き合わせ

 プロジェクトが停滞してしまっているので、ここらで一度、発達障害に関する医学上の標準回答との突き合わせをしたいと思います。そろそろやりたいなぁと思っていた時にちょうどいい本が出たのでやるって感じです。

 今回使用する本は上記、『Newton 2024年 11月号』です。最新の発達障害に関する標準回答が一通り掲載されていました。

 本記事はINT-1からINT-3までをお読みいただいていることを前提に進めていきますので、未読の方は先に『(仮称)ワードカウンター制作プロジェクト 発達障害/精神障害者用福祉用品』から過去記事をお読みください。

 メインは突き合わせですが、個人的に疑問に思ったことなども指摘していきます。

 

18P 発達障害の脳科学

 タイトルページですね。

発達障害は、脳神経の発達が通常とはことなることで生活に支障が出る、生まれつきの特性です。
なぜコミュニケーションがうまくとれないのでしょうか。なぜ注意力が散漫になるのでしょうか。

 と、いきなりもやっとする出だしから始まるわけですが、これがよくある発達障害における標準的な説明です。誰しもが思う疑問と同じ文章を使って興味をひいているのです。ひらたくいえば「わかります。発達障害っておかしいでしょう?」という言葉で共感を誘い、あとで「いやいや、実はこうなんですよ」と認識の転換をさせて「勉強になった。良いものを読んだ」と思わせる商業文章的なテクニックなのです。

 

20P 21P:発達障害とは?

発達障害は, 脳神経の発達具合で生じる特性。大人になって発症することはない。

 いきなり苦しい文章から始まります。発達具合で生じる特性であるのなら、成長過程で発現するイメージが持てますが、直後に「大人になってから発症することはない」と続きます。また中盤には「環境の影響も受ける」と書かれてます。「……じゃあ生まれつき発達障害の原因因子を持っていなかった人でも、成長過程で発達障害の症状が発現する人もいるのでは?」と思える内容なのですが、その疑問を解消する内容は書かれてません。

 でもこれくらいふわっとしたのが発達障害あるあるの解説なのです。とにかく遺伝子が原因なのです。その遺伝子というものは生涯かわらないというのが医療の標準回答なのですが、変異する可能性も標準回答として示唆されているため、結局、生まれつきに固執する必要はなさそうだな、というのが正常な所感になります。

 文部科学省のデータによると自閉症の診断を受けている児童は平成19年度以降毎年6000人ずつ増えているらしいです。毎年増えているというデータを見て思うのは、私たちの時代には過去にはなかった技術があるということ。そう、インターネットです。

 自論の発達障害依存症説では「言葉の使用量」を発症機序の一つとしていますので、インターネットが定着した文化圏では発達障害の発症率が増える、というのが順当な推察です。

たとえば「双生児の1人がASDの場合、もう片方もASDを発症する確率を調べたところ、二卵性双生児では0%〜28%であるのに対し、遺伝情報が一致する二卵性双生児では60%〜92%になる」という報告があります。

 持論では発達障害を依存症の類と扱っているので、ここの数値も依存症の知見と同等のものだとありがたいです。調べてみたところアルコール依存症に関しては一卵性双生児の方が発症率が高くなるというデータがありました。ギャンブル依存症も同様に一卵性双生児の方がより多く起こるそうです。

 このように本記事では依存症の知見と同等に扱える情報を揃えていく感じで進めていきます。定義上は発達障害と依存症が別々のものであることが揺るがないとしても、同等のものとして扱える補強情報が多ければ多いほど、依存症の分野で蓄積された知見を発達障害の分野でも有用性を優先して活用できる視点が増える、という考え方です。

 ネットで検索するだけでも補強できそうな記事がわんさか出てくるので、本記事では確認用のリンクだけにとどめます。

 

22P 23P:三つの発達障害——自閉症スペクトラム, 注意欠如多動症, 学習障害

 ADHD、ASD、LDの基本的特徴が解説されたページです。ASDはアスペルガー症候群と自閉症に分けられています。ここは厚生労働省のウェブサイトの内容が参考になっているようです。

アスペルガー症候群の症例 誰かと話しているときに自分のことばかり一方的に話をしてしまい、相手の顔色などを読んで、話をふくらませたりやめたりすることがむずかしいことがあります。一方、大好きな電車のことになると、博士とよばれるくらい専門家顔負けの知識を持っていて、感心されます。

 なんで電車限定やねんってツッコミたいところなのですがそれはさておき、これはまさに依存症の特徴ですね。子供が大好きなゲームのことを話しまくる様子を見るとつい無邪気な様子だと思えてしまいますが、依存症との違いはあるのでしょうか。

学習障害(LD) 知能の遅れがみられないにもかかわらず、読む、書く、聞く、話す、推論するなどの行為に関して、何らかの障害を示します。

会議で大事なことを忘れないようにメモをとろうとしますが、ほんとうは書くことが苦手で、書くことに集中しようと気をとられて、かえって会議の内容がわからなくなってしまいます。スマートフォンの録音機能を活用するなどのくふうによって、苦手なことをうまくカバーすることができます。

 依存症は著しい脳疲労をきたすため、認知能力や学習能力の低下が原因だと捉えることはできます。依存症の症状と扱っていない理由が気になります。しかしまぁ、スマートフォンの録音機能の提案はひどいですね。

注意欠如多動症(ADHD) 「不注意」や「多動」がみられます。さまざまな作業を並行してこなすマルチタスクが苦手という特徴があります。

たいせつな仕事の予定をよく忘れたり、たいせつな書類を置き忘れたりしてしまいます。

 これも依存症の症状を抱えているなら十分陥る境遇ですので、積極的に発達障害固有のものとして捉える理由がありません。

このような発達障害は、血液検査や脳画像診断といった特定の検査で明確にわかるものではありません。そのためにもその人が持つ特性、生育歴、生活における困難さを見きわめたうえで、精神科などの医師が時間をかけて発達障害の診断と治療を行っています。

 と書いてありますがそもそも発達障害の決定的な証は特定されていませんし、それらの検査で明確にわからないのは依存症も同じです。補助的に参考になります。よくわかっていない人が書いたようなふわっとした文章になっていますね。

 生まれつきならその人の特性も生育歴も生活における困難さも関係ない気がするのですが、あくまでも診断を左右するのは発現している症状を基準とする境遇なのです。噛めば噛むほどわからなくなる内容です。

 

24P 25P:発達障害の大部分は, 脳のネットワークがうまく発達しないことが原因とされる。

 発達障害者の脳で起きていることを解説したページです。神経回路のシナプスが神経回路を形成することで脳が発達していきます。何度も繰り返される刺激については他よりも強固になり、それ以外の回路や過剰にふえすぎた回路は除去されていきます。

 この交通整理のような働きが他の人と違う、というのが発達障害の脳で起きていることとされています。「発達障害では、脳の形態的な異常は見られず、誕生後のネットワークの発達に不具合が生じると考えられています」とはっきり書いてあります。

 最初のページで生まれつきと言ったからには、生まれつきどうなのかという点に関するアンサーがないと読者が混乱すると思うのですが、特に解決に値する記述はありませんでした。

 本記事としてはシナプスの交通整理が依存症の分野でも関わりがあるのかという点に注目します。

 これは特にリンク引くまでもないんですが、依存症はシナプスに著しい影響を及ぼします。依存症 シナプス 影響 – Google 検索

小脳 近年発達障害への影響が注目されています。

 例えばアルコール依存症は小脳の萎縮を起こしますよね。

 

26P 27P:ネットワークの整理 不要な神経回路が適切にまびかれない。「共感覚」をともなう人もいる。

 シナプスの発達と刈り込みについてのおさらいです。

「何度もくりかえされる刺激」に対応するシナプスは重要だと判断され、結合が強化されます。そうではないシナプスは不要なものとして結合が弱められていき、最終的には除去されます。こうすることで、必要なシナプスだけが維持され、機能的で無駄のない成熟した神経回路ができあがります。

 ここの説明は定型発達と発達障害の違いが一番わかりやすいところです。

 イメージとして、神経回路は受け取った刺激に対応して形成されていくわけですが、その働きを自分の意思で制御できないのが厄介な点です。これは虐待を受けて育った子供が大人になってから虐待をする原因や、仕事はできるけどパワハラをする上司が発生する仕組みなどにも通じることで、発達障害や精神疾患が改善しにくい仕組みもイメージしやすくなりますね。

 これは本プロジェクトの根幹でもある「言葉の使用量」を管理する論拠とも通じます。言葉の使用量を減らして意図的に余計なシナプスの剪定をする=症状の元を断つ、ということだからです。

ASDやADHDには、このようなシナプスの選別と刈りこみに不具合が生じていると考えられています。たとえば「ASDの脳では、誕生後に一貫してシナプスの数が多く、刈り込みが不十分で過剰なままである」という研究報告があります。このような異常は不要な神経回路を残すことにつながり、回路の〝混線〟を引きおこしかねません。

 例えばアルコールを毎日の摂取をするとシナプスが消失するという報告があります。ゲームやギャンブルなどの行動依存でもシナプスが変化することがわかっています。発達障害と依存症はシナプスの状態が関わっているという点はおさえておくべきですね。

 

28P 29P:“木を見て, 森を見ず”。ASDは細部の情報が脳で優先的に処理されず。 

 あんまり関係なさそうな項ですが一応触れておきます。

ASDの特性の一つに、「部分的な情報だけを処理しがちで、要素が組み合わさった全体的な情報処理が苦手」というものもあります。まさに「木を見て、森を見ず」という状態です。

 図形のとらえかたや状況をみた優先順位における定型発達との違いを引き合いにしていますが、これなら先日私が記事にしたリレー型とフリー型の違いの方が実態に沿っていると思いました。

https://hyogokurumi.com/psychorivision/ddreview6/selfcare/4-5/ 

 つまり「全体か部分」かではなく、情報を見て思ったことを実行する「フリー」なのか、情報を一行の文章のように認識する「リレー」なのか、という話です。

 発達障害の人で「あなたは全体を見ていない」と言われて、自分の感覚とマッチした指摘だと思える人、どれくらいいるんでしょうか。どちらかといえば、「順当に判断した結果その行動をとった」ではないですか?

 

30P 31P:光, 音, においなどの大量の感覚刺激が流れ込み, 処理がおいつかない

 感覚過敏はあまり自覚がないんですが、私がトイレで鼻呼吸できないことと関係あるんでしょうか?(笑) シャーペンの芯のカチカチとか時計の針の音とか、些細な音が気になってしょうがない、というのはあります。 

 感覚過敏はわかります。例えばアルコールの作用には感覚を鈍麻させる作用がありますよね。あと、音楽の快感はアルコールと同じ脳領域で起きているという報告もあります。音楽で起きるのであれば、人の声でも起きると考えていいような気がします。

 私だけかもしれませんが、人の声が歌のように聞こえることがある当事者さん、いません? もしそこが結びつくのであれば、人の言葉が感覚に鈍麻などの影響を与えるイメージが強くなりますね。

 

32P 33P:表情を読み取ることがむずかしくコミュニケーションが苦手

 ASDの中心となる特性にコミュニケーションが苦手というものがあることの解説です。依存症でクルクルパーになった人のイメージそのものなのでここはサクッといきます。

 表情を読み取ることが難しいとありますが、読み取れたかどうかは、読み取っているならできるはずの行動をしたかどうか、で判断されているような気がしてむずむずします。読み取れていても対応した反応をとるべきではないと判断したため、あたかも読み取れていなかったような行動をした場合は除外されているのでしょうか。

 脳の上側頭溝と下前頭回と依存症の関連を調べたところ、いくつか記事はヒットしたのですが、私が説明してもこじつけになりそうなのでここではやめておきます。

 

34P 35P:報酬系ネットワークの機能低下により目先の報酬を優先してしまう

 これはまさに依存症の特徴ですね。ドーパミンの働きの概要が書かれてます。依存症の解説で見る内容と大差ないです。

 

36P 37P:会話のタイミングをはかる際には小脳のはたらいが重要

 ADHDでは会話のキャッチボールやグループでの意見交換など、話者や状況に合わせて会話に入ることを苦手とする人が多い傾向にあります。

 これは上でもリンクを引いたフリー型 リレー型のとらえかたを基準にしたいところです。子供のころからどちらかの会話に特化してしまったわけです。特にリレー型は飲み会など複数の人が入り乱れて会話をする状況に弱いです。

 授業中のおしゃべりや徘徊癖は衝動性の強さという点でいえば依存症との輪郭を当てはめることができそうです。

 小脳の不具合によって時間感覚がずれていることが適切なタイミングから外れた行動ををしてしまう原因として挙げられていますが、これはタキサイキア現象の視点からも考察したいところです。死ぬ間際にスローモーションになるというあの現象ですが、単純に緊張状態でも時間感覚が遅くなることが研究で実証されています。

 発達障害の人の時間感覚は定型発達の人と違う、その原因が依存症状を所以としたものであるイメージはそう難しくないと思えます。

 バランス感覚も苦手であると指摘されてますが、これも依存症状を抱えているなら別におかしくないことだと思うので飛ばします。

 ちなみに私が思考できるようになったのは、中学生の頃に頭の後頭部の方で突然衝撃が走ったのがきっかけなのですが、小脳の位置なんですよね。これも関係あったら面白いと思っています。

 

38P 39P:脳が休めずに, 注意力が低下する——ディフォルトモードネットワーク

 ここの説明も依存症の状態にみられる症状ですね。一旦やりたいと思ってしまうとその気持ちに囚われてしまい、他のことが考えられなくなるのが依存症の特徴です。一旦満たされれば衝動性は鎮静し、意識の主導権が戻ってきます。

 ディフォルトモードネットワークと依存症との関連として以下の記事のリンクをひいておきます。

デジタル認知症? スマホ認知症? | 福岡市早良区の内科・神経内科で脳ドック おばた内科クリニック

 

40P 41P:脳の発達には, 遺伝だけではなく, さまざまな要因が関係する

 このページは発達障害の要因として考えられている数々の可能性について、エビデンスの強弱を整理した表があり、このページだけでも大きな価値がある特集だと思いました。

最近では、妊娠初期の母親の喫煙や農薬曝露などが、胎児の細胞内で「DNAメチル化の異常」を引きおこし、それが発達障害のリスクを高める一因になっているのではないかと考えられるようになっています。DNAのメチル化とは特定の部位(塩基)」にメチル基という化学構造が付加される現象で、遺伝子のスイッチをオフにする働きがあります。「異常なメチル化によって、働くべき遺伝子がオフになる」。あるいは逆に、「DNAのメチル化が外れてしまうことで遺伝子が過剰に働く」といったことが(略)

 長いので切ります。ようはDNAのメチル化が遺伝子のオンオフを左右していて、それが平均的ではない働き方だった場合に発達障害のリスクが高まるといっているわけです。

 例えばこちらの行動依存に関する論文ではDNAメチル化状態が通常とは異なると指摘されています。

 依存症になることによってDNAメチル化の働きが変わるのであれば、発達障害に挙げられる症状が発現しても別におかしくはないでしょうね。

 

42P 43P:文章をスムーズに読むためには左脳のネットワークが鍵をにぎる

 私も文章が読めない子でした。私の場合は衝動性や脳疲労が原因だったように思います。言語中枢は前頭葉の下にありますが、その前頭葉はアルコール依存症では働きが低下したり萎縮しやすいと、依存症とも深く関わっている部位です。

 これも依存症の分野から切り込める特徴だと私は思います。

 

44P 45P:算数障害では,数の処理や計算を行う脳の部位に不具合がみつかっている

 タイトルの通りの解説ですが、ここも前頭葉の話なので飛ばします。

 

46P 47P:ADHDは薬でドーパミンやノンアドレナリンを補うことで, 集中力を上げられる

 発達障害の症状をおさえるための、ドーパミンやセロトニンの働き方を整えるお薬の話からはじまります。どっちも依存症の分野ではお馴染みの伝達物質ですね。

 そして認知行動療法の話に繋がるわけですが、これも依存症の治療では標準的なことですね。

 

まとめ「発達障害は依存症になりやすい」だけじゃない

 発達障害の情報をある程度漁ったことのある人なら、「発達障害は依存症になりやすい」という話をどこかで聞いたことがあると思います。では、発達障害そのものを依存症の類としてとらえるお話はどうでしょう? いまのところ私の自論だけでしか見たことはありません。

 言葉そのものを非物質系依存の対象としてとらえることで、発達障害を依存症のテーブルの上で扱うことができます。医学がそのアプローチを採用するどうかはこれからの医学の選択次第ですが、個人レベルでも医学に先んじた対策に着手できるのは間違いありません。

 今回の突き合わせでも、やはり発達障害と依存症は同定できると扱ってもなんら支障がないと思えるほどの接点がありました。

 本記事を読んで一考の余地があると思えた方は、ぜひ拙著をお読みください。

 

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