今回の記事は、以前書いた『会話は「リレータイプ」「フリータイプ」の両方を習得しよう』とも関わりの深い内容です。
お仕事をしていると、曖昧な指示に困ることがありますよね。上司や職場環境との相性が悪いとそれが日常になり、改善できないと人間関係の軋轢から退職の理由になったり、適応障害の原因にもなったりします。
「少し」とか「たくさん」とか、そういう数量詞のことではなく、ちゃんと聞いて対応しているのに解釈の違いがあり、後出しでこっちが悪者にされるようなケースの話です。
コミュニケーションエラーに分類され、日本経済を衰退させている原因の1つだとも言える訳ですが、今回の記事ではこの「曖昧な指示」の正体に迫ります。
自然言語と命令語の違い
私たちは言葉で対話をするわけですが、その背景にある要求は2種類に大別できます。
1つが「自然言語」です。ピンと来ない方はChatGPTに質問する時の言葉を思い浮かべてください。プログラムなのに、こちらが話し言葉で質問や指示をしても、言外の意図まで汲み取って回答をしてくれますよね。つまり、相手が意図を汲み取ってくれることを前提とした、普通の話し言葉のことです。
また自然言語では、必要に応じて「こういう意味で合っていますか?」と確認を取ることがやりとりに含まれます。私たちは普段の会話で、相手の表情や反応を見ながら補足説明を加えたり、聞き返したりしますよね。この「確認しながら進める」ことも自然言語の大きな特徴です。
もう1つが「命令語」です。本来の意味は、コンピュータに対して「してほしいことをすべて正確に伝える」ための言葉ですが、人間同士でも使うことがありますよね。
例えば、料理のレシピや組み立て説明書を思い浮かべてみてください。「卵を割って、ボウルに入れ、よく混ぜる」といった手順は、まさに命令語のようなものです。お仕事でも「この書類をコピーして、上司に渡しておいて」と言われた場合、指示が明瞭簡潔であるほど受け手は迷わず行動できます。
命令語の大きな特徴は、指示の内容だけで実行のために必要な情報が揃っており、質問のフェイズがいらないことです。命令語で指示をされた側は、指示の内容通りに実行しますし、それができることを期待されているのです。そのため、命令語の場合において指示が不明瞭だと、受け取った人は意図を正しく理解できず、思わぬ結果になることもあります。
私たちはケースバイケースでこの自然言語と命令語を使い分けているのですが、実はここに、曖昧な指示のメカニズムがあるのです。
曖昧な指示の正体とは?
結論から言うと、先ほど定義した自然言語と命令語が混ざっている指示のことです。
例えば、「そこに積んである箱、ぜんぶ倉庫に運んでおいて。今日中ね」という指示があったとします。箱の中身を知らなくても、倉庫の場所さえ知っていれば、特に疑問もなく実行できるでしょう。このように、実行する為の質問が不要で、不明点のない言い方の指示は、命令語に分類できます。
しかし、言われた通り運んでいたところ、「商品なんだから両手で運ばないとダメだろ。ただ言われた通りにするだけじゃダメだ」と注意を受けました。
命令語に聞こえた指示は実は、「箱の中身はなにか」「どのように運ぶべきか」など、自分に知らないことがあれば確認をして理解することが求められていたのです。
逆のパターンを考えてみましょう。
「ここに積んである箱、商品なんだけどさ、倉庫に運んでおいてくれる?」と頼まれたとします。自然言語的な言い方に聞こえます。疑問点があったので、「ぜんぶですか?」「いつまでです? 今日中ならいいですか?」と確認もとりました。
その後、両手で1箱ずつ慎重に運びました。商品ですからね。しかし、箱を運んでいると、「いやいや、台車つかってよ。効率悪いでしょ!」と注意を受けました。
言葉のトーンとしては自然言語的な指示に聞こえましたが、実際には命令語のように解釈して実行動作に注目し、商品であることはあまり重視せず、ただ効率の良い方法で運べばよかったわけです。
このように、言葉と要求が釣り合っていない言い方が、曖昧な指示になるのです。あなたが働きにくいと思った職場では、こういうことがよくあったのではないでしょうか。
使い分けのできない人に要注意
どこの職場にもこの自然言語と命令語の使い分けのできない人はいます。だいたいそういう人は考えるよりも手と体が先に動くので戦力になり、アルバイトリーダーや管理職の座につきやすいです。
経営者側にとっては頼もしい右腕で、仕事ができるから人を育てて欲しいという期待がかかるわけですが、下流の方ではちぐはぐとした指示言語のせいで、従業員たちが発狂しているというわけです。
発達障害の人は解釈が命令語優位になりやすい
発達障害の人は、聴き方が命令語優位になりやすいので注意が必要です。
以前書いた『スモールステップとビッグステップを使い分けよう!』でもお話ししましたが、発達障害の人は無自覚の内に習得の感覚がスモールステップタイプになりやすいことがその理由です。
スモールステップは全体を理解していなくても、まず「自分にもできる部分」を見つけてそこから取り掛かろうとする為、「まず、わからないことを解決する」という判断をしないからです。
この姿勢が結局、「わからないまま、言われたことだけをやった」という日雇い作業者のような行動パターンに思われるわけです。
上司は命令語ベースになりやすい
仮に使い分けができるとしても、管理職の立場になると、おのずと命令語ベースになりやすいことには理解が必要です。上司の仕事はあくまでも管理、指示、判断です。業務を円滑に進めるためにも明確な指示が求められます。そのため、指示を出す際に言葉が簡潔で断定的になりがちです。
この不可抗力的なスタンスが結果的に、不明点があっても質問が不要のまま実行できる言い方の指示になりやすいわけですが、部下がよく知らないまま対応することは望んでいないわけです。
ですので、上司の言葉は命令語の言い方だったとしても、自然言語的に解釈して対応することを常に意識したほうがいいわけです。
対処法
この要求言語の違いにおける対処法の肝は、この違いをわかっていること、これにつきます。
ですので以下の説明は蛇足みたいなものです。そのつもりでお読みください。
指示を出す側の人と、聴く側で対処が分かれます。
指示を出す側は、
- 命令語要求(言われた通りやって欲しいだけ)の時は、命令語の言い方をする。
- 自然言語要求(疑問や不明点は理解してから対応してほしい)の時は、自然言語の言い方をする。
- 相手に要求レベルが伝わっていなかった場合のことを想定しておく。
逆に指示を聴く側の時は、
- 指示者の言い方が命令語であれ自然言語であれ、最初は自然言語的な解釈を前提とした対応をする。知らないまま進めた、という最も心象を落とす判断を避ける為です。
- 命令語的解釈をするのは十分に理解できている業務のみ、としておく。
これが私の経験上、最も無難です。
自分が混乱しないこと、それが一番大事なんです。
わかっていても通じない場合
ここまでわかっていても、全く適応できない職場がありました。言葉に振り回されまくるので、ほとんどいじめられているに等しい境遇に陥ります。
そういう職場は心身を病む前に、さっさとやめたほうがいいと思います。
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