数年前に旧考察ブログの方で『BBS世代とSNS世代の違いから考察する言語認識の根本的違い――ネットに向かって喋る人たち』という記事を書きました。(現在は『発達障害考察本外伝4: 発達障害を自力で寛解した話』に収録したため非公開)
会話の感覚を、相手の言った言葉に対応する形で応答する「対応型」と、相手の言った言葉ではなく自分が思ったことを基準に応答する「感想型」で分け、その違いの気づきを解説した記事です。
掲載直後から反響があり、当時500〜1,000PV/日ベースだったブログに二、三日で200,000PVものアクセスが集まり、個人ブログを中心に様々な外部サイトで紹介されました。
その記事はネット上での対人やりとりを想定した記事だったのですが、今回はそのリアル版ともいえる内容となります。特に労働の現場にスポットを当ててお話ししていきます。
二種類の会話感覚を習得しよう
記事タイトルの通り、会話の種類は二種類に大別できます。例えば、話が広がる上手な会話として、頭で使う会話の感覚を「連想ゲーム」に置き換えた解説をどこかで見たがある人も少なくないと思います。
いろいろな解説方法が考えられる分野の話なのですが、本記事では「リレー型」と「フリー型」というワードで分類したいと思います。
リレー型の会話
リレー型は、例えばしりとりのように、相手の言ったことに対応する応答を繋げる形で進む会話法です。
リレー型の会話の例
A:昨日、映画を観に行ってきたよ。
B:へぇ、何の映画?
A:恐竜惑星2。
B:今話題のやつじゃん。面白かった?
A:まぁまぁかなー。
最初にAが「映画を観に行ってきたよ」と言いました。それを聞いたBが「へぇ」と相槌をうってから「何の映画?」と聞きました。Aは「恐竜惑星2」と答え、Bが「今話題のやつじゃん」と、解答に対して思ったことを言い、続けて「面白かった?」と聞き、Aは「まぁまぁだったかなー」と感想を述べました。
相手の言ったことに対応する応答をしていることがポイントです。
フリー型の会話
フリー型は、例えば古今東西ゲームのように、相手の言ったことから連想できる応答を繋げる形で進む会話法です。
フリー型の会話の例
A:昨日、映画を観に行ってきたよ。
B:面白かった?
A:がらがらでさー。恐竜惑星2。
B:1は観たよ。
A:久々に映画館行った。
最初にAが「映画を観に行ってきたよ」と言いました。それを聞いたBが「面白かった?」と感想を聞きました。Aは映画館がつまらなくて観客も少なかったので、がらがらだったと返しました。そしてタイトルを言いました。Bは話題の恐竜惑星2と聞いて、自分は1を観たことがあると言いました。Aは映画館へ行くのが恐竜惑星1以来だったので、久しぶりに映画館へ行ったと言いました。
こちらは相手の言ったことについて自分の思ったことで応答していことがポイントです。
雑談におけるメリット・デメリット
会話の種類なんて気にしたことのない人でも、こうして言語化されると、言われてみれば違うよね、と思えるのではないでしょうか。それぞれの特徴から雑談におけるメリットとデメリットを整理してみましょう。
リレー型
リレー型は、相手の言った言葉をリレーのバトンのように受け取り、相手に返しながら進めていきます。メリットとして、会話の内容がわかりやすく誰でも加われます。デメリットとして、会話の広がるペースがゆっくりという特徴があります。また、相手の言った言葉を基準に応答を組み立てるので、思わぬかたちで失言をしやすいです。
フリー型
フリー型は相手の言った言葉から自分が思ったことを言い合う形で会話が進んでいきます。メリットとして、会話がせかせかと広がっていきます。デメリットとして、会話の内容がわかりにくく一部の人しか加われないという特徴があります。思ったことをそのまま口から出してしまうため、言葉で人を傷つけやすいです。
ここまでを前提として、次項から本題へうつります。
病識レベルの高い発達障害者はリレー型になりやすい
ここからが本題です。私の経験則ですが、発達障害者は無自覚のうちに会話の感覚がリレー型になりやすいと思うのです。特に病識レベルが高く、自助努力で改善する意思が高いタイプです。今回の話を外伝の中で取り上げた理由の1つです。
そういう人は、社会に適応するために、他人の会話を観察・分析することを営みとします。その努力が、リレー型の会話感覚を鍛えていくのです。
それ自体は能力として昇華していくわけですが、残念なことにこの社会はフリー型の会話を中心に回っています。リレー型に特化すればするほど、この社会で生きづらくなるのです。
職場におけるメリット・デメリット
職場でもし、極端なフリー型とリレー型がバッティングしたら、どのようなことが起こるのでしょうか?
実際に起きた実例をもとに考えてみましょう。
フリー型上司 vs リレー型部下
フリー型上司
「このあとは定時まで、あと1時間、材料Aをつくってもらおうか。素材はそこからBをつかって。次回の作業で10個つかうから」※材料Aを1つ作るのに3分前後リレー型部下
「わかりました」……50分後
フリー型上司「もうおわってる?」
リレー型部下「いま15個できたところです」
フリー型上司「なんで10個以上やってんの?」
リレー型部下「え?」
フリー型上司「俺使うの10個って言ったよね」
リレー型部下「申し訳ございません」
フリー型上司「人の話はちゃんと聞こう!」
解説
リレー型部下は、「このあとは定時まで、あと1時間、材料Aをつくってもらおうか」と指示されたので、定時までやり続ける作業として話を聞きました。はじめから材料Aは10個とストック分+αつくるつもりで取り掛かりました。
今度は逆にしてみましょう。
リレー型上司 vs フリー型部下
リレー型上司
「このあとは定時までに材料Aを10個だけ作ってください。次回の作業で10個使いますから。あと1時間ありますね。素材はそこからBをつかってください」フリー型部下
「わかりました」……50分後
リレー型上司「もうおわりました?」
フリー型部下「4個在庫があったので、6個だけ作りました」
リレー型上司「なんで勝手に作業変えるの?」
フリー型部下「10個あればいいんですよね?」
リレー型上司「ストック分も必要だから今日10個作ればいいんです」
解説
フリー型部下は、「次回の作業で10個使います」と聞いたので、次回の作業時に10個あれば良いと考えました。作業中で在庫数を調べて、素材の無駄使いにならないよう在庫数が合計10個になるようにしようと思ったのです。
リレー型は、聞いた通りに行動することが得意です。受け取った情報を一行の文章のように整理します。しかし、次の行動に必要な情報が揃っている場合、疑わずに作業を進めてしまうことが多いです。
また、言葉を組み立ててから伝えることが前提なので、相手が意味を中心に行動するパターンに弱いです。
フリー型は、聞いた内容から必要な結果に向かって行動することが得意です。受け取った情報から想像して対応します。しかし、言葉の内容の通りに行動することを不得意としています。
また、正確に順序立てた説明が不得意で、相手が聞いた通りに行動するパターンに弱いです。
前提と不得意の違いは両者を分ける重要なポイントとして押さえておきましょう。
特化してしまう原因
原因としては遺伝子や神経回路の先天的要因も疑えますが、過去のことを考えてもどうしようもないので、ここは後天的な要因に注目しましょう。
例えば親がフリー型特化の場合、子供は親の脈絡のない言葉に振り回される環境の中で、言葉を理解して組み立てる能力は否応無しにあがっていくでしょう。親の言葉を理解するために、リレー型特化になったストーリーは想像し難くないです。
逆に、親がガチガチのリレー型だった場合は、子供は親の言った通りに行動しないと許されない境遇に陥るでしょう。そのため、感情を重視するフリー型特化になったストーリーを想像することができます。
これは親ではなく職場の上司の場合でも同様です。
いずれにせよこの問題は原因よりもどう対処するかが重要です。少し意識するだけでも人生観は大きく変わります。
社会の実態
リレー型とフリー型、それぞれにメリット・デメリットがありますが、この社会の実態としては、フリー型が優位と言わざるを得ないです。
フリー型特化の会話は映画の『メッセージ』に登場したヘプタポッドの言語みたいなもので、会話についていけない人を否応なしに生み出します。人同士の優劣を発生させる話法なのです。
そう言う意味でも、リレー型は傾聴姿勢、フリー型は競争姿勢とも言えるでしょう。
フリー型に特化したタイプは他者と足並みを揃えない為、周囲はフリー型の言葉に疑問を感じたり質問をするといった関係が自然形成されていきます。それが社会的対応だからです。そうこうしていくうちに、一緒にいる相手は思考がリレー型特化になっていきますが、その時点で優劣関係が築かれており、フリー型はリレー型の指示をきく立場になっている社会構造がある。そう私は睨んでいます。
なぜならほとんどのフリー型は自分のせいで他者がリレー型になってしまっていることに気づきませんし、リレー型の方もフリー型の恣意的な注意のせいで、自分は仕事の覚えがわるく、やるのも遅く、こだわりが強いだけで、社会人としてのなんたるかもわかっていない人だと思い込んで生きているからです。脳のシナプスの神経回路は繰り返されることを基準に形成されるので、そういう人格になってしまうのです。
こうして、仕事の早いフリー型と、それより遅いリレー型というバランスが形成され、どこの会社でも説明もろくにできないパワハラ上司に多くの健常者が振り回される。そんな社会構造が形成されていくわけです。
まぁ逆も然りですけどね。リレー型に特化しすぎた人と会話をしたら、なかなか話が進まなくてイライラする感じは想像し難くありません。以前は私自身が超リレー型だったのでよくわかります。ただそれでも、社会問題の構造として、フリー型特化タイプが周囲を振り回してリレー型特化の人を、つまり精神疾患に陥る人を生み出しまくっているという関係性は優先課題として認識するべきだと思います。
おわりに
発達障害の症状に悩んでいる人は、日々いろんな弱点と向き合っていると思います。ケアレスミスや仕事の進め方を克服された方もいるでしょう。未発表のアプローチの中には論文にして発表するべきものもあると思います。でも、そうして最後に残るのが、この会話のタイプの違いによる優劣関係です。
本記事を読んで、「自分はリレー型だった、会話のタイプの違いに気づかなかった!」という人は、フリー型の話法をぜひ習得してください。それができれば、働ける幅がぐっと広がること間違いなしです。
フリー型特化の人は、まず会話のタイプは複数あることを理解し、リレー型の会話も学んでください。習得できないままだとしても、理解はしてください。私の勘ですが、ネット社会になってから、フリー型特化の人は居場所を失いつつあると思うのです。なぜなら、人の話を聞いていない、会話が全てマウント、傾聴ができていないといった、精神疾患のような症状として目立っているからです。一緒にいるリレータイプは、介護者になったようなストレスをあなたから日々感じています。
予想ですが、AIとの会話は間違いなくリレー型の感覚が鍛えられます。フリー型は今後、自然淘汰されていくでしょう。
近年、発達障害の存在が社会的に定着したことで、コミュニケーションの問題は定型発達vs発達障害という構図で語らることが多くなりました。しかし、現実的には発達障害同士でも起きていることです。
その捉え方を整理する観点として、私は今回の記事でお伝えした「リレータイプ・フリータイプ」というグループ分けを強く推したいです。
なぜならコミュニケーションの問題というものは、相手が定型か、発達か、で区別できるものではないからです。
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