レストラン課題
次の文を読んで問いに答えなさい。
一郎さんと花子さんは、味がよいことで評判の高級レストランに入りました。ところがレストランは人でいっぱい、なかなかボーイさんが注文を取りにきません。三十分くらい待たされてやっとボーイさんがやってきました。ところがこのボーイさんは態度が悪く、三十分も待たせたのに、まったく詫びる気配もありません。
一郎さんはボーイさんに言いました。
「さすがは高級レストランだね」
最後の言葉を言った一郎さんの気持ちは次のどれでしょう?
この問題は「心の理論」に関するもので、自閉症や発達障害について考える際によく取り上げられるテーマの一つです。私は2000年頃、ネットで発達障害について調べていたときに、あるサイトでこのテストを知りました。当時は関連サイトでよく紹介されていた記憶がありますが、最近はあまり見かけなくなりました。
どの選択肢も一見それなりの理由がありそうですが、社会通念に照らし合わせた場合、適切な回答は(3)です。直感的に(3)だと分かるのが理想的です。
なぜなら、一郎さんは「怒っている」と読み取れる状況だからです。(1)や(2)を選んだ方は、自分の感情や価値観をベースに判断した可能性があります。実はこれが、自閉症傾向を持つ人によく見られる認知の特徴でもあります。
「もしかしてひっかけ?」と感じて(1)や(2)を選んだとしても、「一般的には(3)だよね」という認識があれば、それで問題ありません。
以下では、この問題を考えるうえでのポイントをいくつかご紹介します。
一郎さんの気持ちを考えましたか?
もう一度、問題文を読み返してみてください。この問題は「一郎さんの気持ち」を問うもので、「自分ならどう思うか」ではありません。
社会では、常に相手の立場に立って考える姿勢が求められます。それは多くの場合、「相手の立場で考えて」と明示されるわけではありません。なぜなら、それが「常識」とされているからです。
たとえば、30分間も放置されたら、多くの人は不快に感じるものです。ですから、選ぶべき回答は(3)です。「自分なら気にしない」という話ではないのです。
「普通の人」としての一郎像を想像できましたか?
一郎さんの性格をあれこれ推測する必要はありません。問題文には彼の人柄についての情報は一切なく、「一郎」という名前も、「太郎」と並んで仮名の代表例として使われる一般的な名前です。つまり、「普通の人として考えてね」という前提が暗に示されています。
空白の30分間にこだわっていませんか?
一郎さんと花子さんは、その30分間に何をしていたのでしょうか? 実は、そこを深く想像する必要もありません。この問題は「30分も待たされた上に不快な接客を受けた」という設定だけで考えるようになっています。
仮に「30分間の過ごし方」が正解に影響するのであれば、その情報が問題文に書かれていなければ不適切です。書かれていないことを根拠に回答を導くのは、フェアな読み方ではないのです。だから、実際の状況をあれこれ想像する必要はありません。
20年前の私の体験
私が初めてこの問題に出会ったのは、発達障害について調べ始めたばかりの頃で、診断も受けていない段階、いわゆるグレーゾーンの時期でした。
当時の私は、
理解しやすいように、たとえ話をします。ある人の写真が3枚あり、うち2枚は自然に写っていて、1枚は明らかに変な顔に写っています。「この人の顔はどれですか?」と聞かれたとき、わざわざ変な顔に写っている写真を選びますか? 冗談で選ぶのはわかります。でも真面目な場面なら選ばないと思います。
では、話を戻しましょう。当時の私には、(3)を選ぶということは、「怒っている瞬間の一郎こそが一郎だ」と答えることに値したわけです。先ほどの写真の例えでいうところの、変な顔の写真を選ぶのと同じです。私なら嫌ですし、人に対しても同じことはしたくありません。ですから(3)は即除外なのです。
その後は(1)と(2)のどちらかで考えるわけですが、どちらもなんだか違うような気がしました。違和感が拭えず、問題文を何度も読み返しました。それでも最後まで(3)を選ぶことができませんでした。
そして解説を読み、私は衝撃を受けました。正解は(3)だと明記されていたのです。そこで初めて「この問題は、怒っている一郎を指して、これが一郎だと思うべき問題なのだ」と理解できました。
同時に、私は子供の頃から国語の読解問題が苦手で、文章の主旨や意図を読み取って答えられなかったことを思い出しました。
おわりに
人としての価値観はさまざまですから、(1)や(2)を選ぶこと自体が「間違い」だとは言い切れません。ただ、現代社会においては、その選択が生きづらさやコミュニケーションの齟齬を生むリスクがあることも理解しておくとよいでしょう。
自分の感覚を無理に変える必要はありませんが、「一般的には、こう捉える人が多い」という知識を持っておくことが大切です。その視点から見れば、答えは自ずと(3)になるのです。
この問題は、単に発達障害に関する理解を深めるためだけでなく、広く「他者との関わり方」や「社会的常識」を学ぶ題材としても活用できる内容です。
もし関心を持っていただけたなら、ぜひ友人やご家族、職場などで話題にしてみてください。